なぜ外科医は、「手術は成功しました」と言わないのか

医療

病院を舞台にしたTVドラマで、よく聞くセリフにこんなものがあります。

外科医
外科医

安心してください。

手術は成功しました!

この言葉を耳にするたびに、大きな違和感を感じています。

「私、失敗しないので。」こちらは人気ドラマ、ドクターXの決め台詞です。こちらも現場の医師目線では、あり得ない表現で、無責任な発言やなと思っています。医療監修がしっかりしすぎているとドラマとして面白くないのかもしれませんが、設定がおかしいと考えてしまって楽しめないため、医療関係のドラマはほとんど観ないですね。

今日は、私たち外科医が、患者さんのご家族に「手術は成功しました」と言わない理由についてお話します。皆さんのなかには、主治医が良い話をしてくれないと、不満を感じている方がいるかもしれません。私たちが安易に良い話をしない理由を聞くことで、納得、安心できるのではないかと思います。

「手術は成功」とは言わない理由

  1. 手術直後には、成功かどうか判断できないから
  2. 言葉の定義があいまいで、誤解を生む可能性があるから
  3. 術後合併症をミスのせいと考える人がいるから

順番に解説します。

1.手術直後には、成功かどうか判断できないから

手術が会心の出来だったとしても、経過が良いとは限りません。たとえば心臓の手術や食道がんの手術は合併症が発生する可能性が高く、経過によっては術後合併症で命を落とすことも決して珍しくありません。少なくとも元気に退院できないと、とても成功とは呼べないのではないでしょうか。未来のことは分かりませんから、成功という言葉を使うことはありません。

2.言葉の定義があいまいで、誤解を生む可能性があるから

患者さん側と医療者側の基準がずれていると、思わぬ不幸を招きます。

成功」という言葉の定義が曖昧だと、受け取り方が違う恐れがあります。たとえば、交通外傷の緊急手術で一命を取り留めたものの、一生車椅子生活になってしまった場合、術後に「(車椅子生活にはなるだろうけど、命は助けられた、)手術は成功です」なんて伝えていたら、患者さんは失敗だったと感じるかもしれません。

このすれ違いが大きいと、訴訟のリスクになるかもしれません。

少し残念な話ですが、今の時代、思い通りに治療が進まなかっただけで逆恨みしてくる患者さんは一定数いらっしゃいます(もちろんひと握りですが)。安易な術後説明は、揚げ足取りをされて、訴訟リスクになります。つい起こりうる最悪のケースを中心にお話せざるを得ないのが現場の外科医の考え方です。

3.術後合併症をミスのせいと考える人がいるから

これも、「2.言葉の意味」のひとつかもしれません。

先述のとおり、心臓や手術のように大きな手術の場合、合併症が起こるリスクがどうしても一定頻度であります。これらの手術の後に、小さいことまで含めれば、なにも起こらないことの方がすくないでしょう。

合併症と失敗とは違います。失敗が合併症の原因になることはあるでしょうが、充分な技量と注意をもって行われた手術でも発生するのが合併症です。合併症はゼロにすることはできません。

しかし、合併症をミスや失敗のためと捉える患者さんもおられます。少なくとも成功とは感じないでしょうから、術直後の段階で「手術は成功」と伝えるのは得策とは言えません。

もちろん合併症を減らす努力を最大限して、それでも発生したら全力で治療にあたる。これは当然のことです。

術後に伝えていること

では、我々外科医は、術後にどんなことを、患者さんやご家族に伝えているのでしょうか。

そもそも術前に説明をしておくことが大切です。起こりうること、特に思わしくない経過については、ある程度避けられないことや対応策、治療成績を含めて、よく説明して理解しておいてもらう必要があります。

そのうえで、もし予定どおり無事手術が終了したら、「手術は予定していたとおり無事終了しました。これからの経過を見守りましょう」とだけ、お話しています。

「上手くいきました。心配ないですよ」と伝えて、ご家族を安心させてあげたい気持ちはあります。しかし、いろいろな患者さんの術後経過をみてきた医師の立場から、気休めは言えません。

なかには安易に「大丈夫」という言葉を使う外科医もいます。よほど信頼関係が築けているのなら良いのですが、深く考えずに説明している場合が多いので、むしろ不誠実に思います。

まとめ

  1. 術直後に「手術は成功です」と言い切れる外科医はほとんどいない
  2. 成功かどうかは経過を見ないと判断できないから
  3. 言葉の受け取り方が違うと医師患者関係を損なうから

患者さんと信頼関係を築くことも、外科医の大切なスキルと思います。共通の目的である、共に病気と戦って治していくための関係が築けるように、日々、悪戦苦闘しております。

コメント

  1. 患者A より:

    はじめましてコウタロウ先生。
    私は少し前に癌(結構重め)の手術を受けました。患者の立場にて、
    コウタロウ先生の色々な発信を参考にさせていただいております。
    自分の手術の時、終った直後に主治医の先生よりかけられた言葉が「手術は上手くいきました」だったのです。
    非常に満足気に、頭を下げながらそう話した姿が深く心に残っています。
    そういえば、主治医の先生「大丈夫」とよく言うので、何か共通するのでは?!と思いました。
    確かに、何がどんなふうに等、具体的でないとかえって不安になってしまうこともあるのです。
    大きな病気を経験し改めて医師からかけられる言葉の重みを痛感しています。 
    因みに、自分の主治医は三十代の若い医師です。 
    コウタロウ先生はベテラン医師とのこと。
    やはり、経験を積まれて様々なことが身についたのでしょうか?
    これからも色々教えてください!

    • コタロウ より:

      コメントありがとうございます。ブログを続ける励みになります。

      大きな手術を経験されたとのこと、たいへんお疲れさまでした。

      医師と患者さんの関係はそれぞれなので、掛ける言葉もケースバイケースです。
      私も「上手くいきましたよ」「あまり心配しなくていいと思いますよ」という言葉はよく使います。

      キャリアを重なると、却って安易な言葉が口にできなくなるのはそのとおりで、少しさびしいことでもあります。

      今後共ご指導のほどよろしくお願いいたします。

      コタロウ

  2. 患者A より:

    先程コメントした者ですが。
    コタロウ先生なのに、コウタロウ先生と間違えてしまいました!
    大変失礼いたしました。
    改めまして、コタロウ先生、
    これからも色々教えてくださいませ。
    宜しくお願いします!

タイトルとURLをコピーしました