ロボット手術ってなに?

医療

質問

こんにちは、コタロウです。

こんな質問をいただきました。

ロボット手術ってなに?鉄腕アトムみたいなロボットが、医者の代わりに手術してくれるの?

コタロウ
コタロウ

内視鏡手術は知名度が上がり、みんなが知ってる手術になりましたが、ロボット手術はまだ分からないことが多いですね。

ここでは、ロボット手術について解説します。

私は、消化器外科医として、1.開胸・開腹手術、2.鏡視下(腹腔鏡、胸腔鏡)手術、3.ロボット手術と、その時代の主流になった3つの手術方法を全て経験してきました。

この記事を読むと、ロボット手術のことが理解できるようになります。

開腹→腹腔鏡→ロボット?

時代の変遷に沿って、各手術方法について概説していきます。

開腹、開胸手術は、説明するまでもないでしょう。大きなキズでおなかや胸の中にアプローチする手術方法です。術者の手で直接操作ができる、特別な機材を必要としないといった利点はあるものの、傷が大きい、回復が遅れる、術後の合併症も起こりやすい、後遺症が残りやすいといった欠点があります。

開腹手術
開腹手術

手術による身体の負担を減らす目的で1990年台から登場、普及したのが腹腔鏡手術でした。おなかや胸に穴を開け、カメラ(腹腔鏡、胸腔鏡)と鉗子を入れて、身体の外からモニターを見ながら手術を行なう方法です。まず胆嚢の手術で始まって、徐々に大腸、胃、食道などのより難易度の高い手術に広がってきました。今では外科手術の大部分を占める手術のやり方です。

腹腔鏡手術
腹腔鏡手術

キズが小さいという美容的なメリットもありますが、それよりも「より繊細な手術ができる」ことが普及の大きな理由だったと考えています。これは外科医でない人には分かりにくいかもしれません。腹腔鏡手術は、おなかのなかに眼が入るようなものなので、「見える」ことに関しては開腹手術より有利です。「拡大視効果」と言いますが、これにより手術の安全性、成功率が上がった結果として、腹腔鏡手術は外科手術の中心になってきたのです。

一方、欠点もあります。小さな穴から高枝切りハサミのような鉗子を入れて操作するので自由が効きません。かゆいところに手が届かないことがありますし、細かい作業には限界があります。また、開腹手術と違う独特のトレーニング、研修が必要になります。

真っ直ぐな鉗子だけを使う腹腔鏡手術
真っ直ぐな鉗子だけを使う腹腔鏡手術

腹腔鏡手術の欠点を補うべく開発されたのが、ロボット手術です。

冒頭の質問のように、鉄腕アトムのようなロボットが人間の代わりに手術をしてくれる訳ではありません(いずれそんな時代も来るのかもしれませんが)。同じロボットでも、リモコン操作で動く鉄人28号のようなイメージ(古いでしょうか?)で考えてください。操作するのはあくまでも人間です。ロボット手術は、腹腔鏡の穴を使って、鉗子をロボットを介して動かす、腹腔鏡手術のひとつです。

ロボット手術
ロボット手術

ロボット手術には、以下のようなメリットがあります。

1.高解像度3Dカメラ:腹腔鏡より、さらによく見える
2.多関節機能:人間の手よりも可動域が広い鉗子で、自由度が高い
3.モーションスケール:実際の手の動きと1.5〜3:1で動くため、より繊細な操作が可能
4.手ブレ防止機能:コンピュータ制御でわずかな手先のブレまで抑えてくれる

これらの利点から得られる圧倒的な安定感が、ロボット手術の最大の利点でしょう。

ロボットの鉗子は自由度が高い

ロボット手術は、2000年頃から開発が進められ、日本では2012年から前立腺がんの手術で保険適用(診療報酬制度の改定により、国民保険で受けられるようになったという意味です)、2018年には胃癌、直腸癌、食道癌など12の術式で保険適用となりました。さらに2020年の改定で、膵臓がんなどにも適用が拡大されています。

2021年2月の時点で日本国内で保険診療として受けられる、ロボット手術の全てがこちらになります。

 腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術
 腹腔鏡下腎部分切除術
 胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術
 胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術
 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術
 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術
 胸腔鏡下弁形成術
 腹腔鏡下胃切除術
 腹腔鏡下噴門側胃切除術
 腹腔鏡下胃全摘術
 腹腔鏡下直腸切除・切断術
 腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術
 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)
 腹腔鏡下膣式子宮全摘術
 腹腔鏡下膵頭十二指腸切除術
 腹腔鏡下膵体尾部切除術
 腹腔鏡下拡大胸腺摘出術(重症筋無力症に対する)
 腹腔鏡下仙骨腟固定術

そんなに利点の多いロボット手術なら、もっと多くの手術に使われてもよいのでは?と思われるのではないでしょうか。

実は、ロボット手術には欠点もいくつかあります。

  1. 触覚がない:最大の欠点です。危険な血管に無理な力がかかっていても気づかれにくくなります。
  2. ロボットが大きいため助手のアシストがしにくい
  3. 器械が高価:現在主流のdaVinciというロボットは約3億円しますし、メンテナンスには年間数千万円かかります。鉗子類などの消耗品も高価です。
  4. 緊急対応しにくい:出血などで緊急開腹するときには時間がかかります。
  5. トレーニング:ロボットを扱うためには特別なトレーニングが必要になります。

メリットとデメリットを天秤にかけて、検討された結果、保険適用される手術が決められています。

ロボット手術の現状と未来

上記のような特性を考慮して、(保険適用されたなかでも)ロボット手術が望ましい場合とそうでない場合があります。あくまで私見ですが、実際にロボット手術を多数行なっている外科医の意見です。

前立腺癌の手術は、骨盤内の狭い場所で安定した手技が必要で、ロボット手術の利点が活かされます。同様の理由で、食道癌直腸癌の手術もメリットがあります。実際、これらの病気の手術治療は歴史的に、開腹(開胸)から腹腔鏡(胸腔鏡)手術が主流となり、さらにロボット手術に移行が進んでいます。今後、ロボット手術を導入する体力のない病院は生き残りが難しくなると言われています。

一方、胃癌は腹腔鏡手術を上回るメリットがまだ出ていない印象です。さほど狭くない上腹部の手術であることや、助手のアシストの必要性が高い手術であることが理由になります。膵癌の手術は、膵臓という非常に繊細な臓器を触覚のないロボットアームで操作する必要あるため、まだまだこれからの分野という感想です。専門外領域ですが、子宮の手術もまだ腹腔鏡手術より大きな利点はなさそうに感じます。

また、欠点にも挙げたようにロボット手術のトレーニングができる場所は限られています。日本全体として安全に普及させていくために、日本内視鏡外科学会は、全国の外科医に、ロボット手術を行なうための一定の資格とトレーニングを課しています。私はロボット手術のプロクター(指導者)ですが、まだまだロボット手術を行なうことができる外科医は少ないのが現状です。もしも、ロボット手術を主治医から勧められた場合は、腹腔鏡手術と比較して利点がどのくらいあるのかと同時に、担当医の経験を確認することをおすすめします。

2019年にロボット支援手術の特許の多くが期限切れになり、最大大手である米Intuitive Surgical社以外の各社がロボット開発に参入してきました。特に米Google社傘下のVerb Surgical社や、日本の川崎重工とシスメックスの合弁会社メディカロイドには期待が集まっています。前者は膨大なデータ処理のノウハウを活かして、いずれは鉄腕アトムのような自動手術ロボットが可能になるかもしれません。後者は、触覚を持たせたロボットの開発を積極的に行なっています。

まだ発展途上ですが、ロボット手術の未来は間違いなく明るいと考えています。

まとめ

  1. ロボット手術は腹腔鏡手術のひとつであり、進化版
  2. 消化器外科領域では、食道癌、直腸癌でロボット手術の優位性がある。
  3. 日進月歩の技術の進歩で、ロボット手術の未来は明るい。

参考になれば幸いです。

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