「術後はつらくない」 〜周術期支援チームの取り組み〜

医療
患者さん
患者さん

今度胃がんの手術を受けるんだけど、痛いんじゃない?すごく心配です。

誰でも経験したことのないことは心配が募りますよね。手術は、身体にキズをつける行為を伴いますから、安易に「術後痛くないよ」というのは嘘になってしまいます。一方で、術後の苦痛を少なくして、早く回復してもらえるような工夫、努力により、医療は日進月歩で進んでいます。今回は、そのような周術期(手術を受ける前後の時期のこと)のお話を、消化器手術を中心にさせていただきます。

コタロウ
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一昔前とは比較にならないくらい、苦痛なく手術を受けてもらう工夫が進んでいます。手術を受けるときに少しでも安心できる材料になれば幸いです。

手術のときつらかったこと

術後にどんな苦痛が起こりうるのか、患者さんからの声をまとめてましょう。

1.術前につらかったこと

①絶飲食期間が長くてつらかった

ちょっと前までは、「手術前に半日以上、絶飲食にしないといけない」という考えが一般的でした。のども渇くしお腹も減るし、患者さんにとって大きな苦痛でした。

②下剤がつらかった

胃腸の手術前には、「腸管をカラにしておかないと術後便秘になったり、腸を切ったりつないだりしにくくなったりする」とされ、絶飲食に加えて下剤を内服していました。その結果、腹痛や下痢になり、つらい思いをすることがありました。

2.術中(手術室で)につらかったこと

①寒いのがつらかった

手術室は、手術をする外科医の都合に合わせて温度設定が低めに設定されることが多く、その結果、患者さんが術直後に寒さからシバリング(低体温から来る強い震え)を起こすことがありました。

②管がたくさん入っていて、つらかった

点滴や鼻の管、おしっこの管(膀胱バルーン)、ドレーン(おなかに入れる管)など、たくさんの管が身体に入ることで、痛み、動きにくさが苦痛になることがあります。

3.術後につらかったこと

①痛いのがつらかった

痛み止めはもちろん使われますが、それでも痛みが一番つらかったと話される方は多いです。これまで、「予防的な痛み止めは治りが悪くなる」といった思い込みが、多くの医師にあり、積極的に痛み止めを使う習慣があまりなかったことも原因でしょう。

②吐き気がつらかった

麻酔の影響や体調不良のために、吐き気を起こすことがあります。術後に鎮痛剤を使いすぎて悪心・嘔吐の原因になることもあります。

③動きにくいことがつらかった

手術で弱っていること、たくさん管が入っていることで動きにくいことは大きな苦痛です。また、「術後の傷の回復には安静が必要」という誤った考え方も原因になっていたと思われます。

④絶食期間がつらかった

「術後は腸がしばらく動かない」、「腸のつなぎ目がしっかりくっつくためには1週間ぐらい必要」と考えられ、絶食を強いられることがありました。飲んだり食べたりできないことは、大きな苦痛になります。

「つらくない術後」への取り組み

このような周術期の状況を改善する取り組みが、近年活発になってきました。安全で苦痛の少ない周術期を過ごしていただけるような促進策として、2005年にFearonらはERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プロトコールを発表して支持を集めました。

ERASプロトコールの導入により、合併症の減少、術後在院日数の減少、医療コストの削減という効果も報告されています。

参考文献

・Fearon KC, et al: Enhanced recovery after surgery: A consensus review of clinical care for patients undergoing colonic resection. Clin Nutr, 24: 466-477, 2005

ERAS:安全な周術期のためのロードマップ

この頃から、周術期の苦痛を和らげて、安心して手術を受けてもらうための取り組みが進んでいます。主なものを列挙します。

1.術前の取り組み

手術前、長時間の絶飲食が必ずしも必要ないことが、いろいろな研究で分かってきました。そのため、術前に長時間の絶飲食が必要になることは、少なくなりました(日本麻酔科学会術前絶飲食ガイドライン)。

下剤の使用も必要最小限にしても問題ないことが分かり、使用量が減っています。

2.術中(手術室で)の取り組み

手術中に体温を維持することで、感染症の減少、出血量の減少、心肺合併症の発生の予防になることが分かってきました。現在は、過度に手術室の温度を下げず、またウォーマーで患者さんの体温を維持するようになっています。

点滴チューブや尿道カテーテル、胃管、ドレーンは、できるだけ入れない、入れてもなるべく早く抜去する方針になってきました。もちろん必要なものは挿入しますが、少しでも少ないほうが患者さんの回復のために望ましいという意識が徹底してきました。

3.術後の取り組み

術後の疼痛管理は、もっとも重要な取り組みになります。APS(Acute Pain Service:急性期疼痛管理)という言葉は、外科医、麻酔科医にとって標準語になっています。アセトアミノフェンなどの非麻薬性鎮痛剤を中心に、予防的(痛む前から痛み止めを使う、この方が効果的です)、積極的に鎮痛剤を使っています

吐き気対策は、リスクが高い患者さん(術前の聞き取りで判断できます)には術中から予防的に制吐剤を使用するなどの対策を積極的に行なっています。こちらもPONV(Post Operative Nausea Vomiting:術後嘔気、嘔吐)という言葉が一般的になるくらい、共通認識ができています。

痛みと吐き気の治療を行なうことで術後早期離床早期の飲食開始が可能になります。

術後に消化管ぜん動運動が回復するまでの時間は、小腸:4−8時間、胃:24−48時間、大腸:24−72時間と、かつて言われていたよりも早い時期に動き出すことが分かり、早く経口摂取を再開するようになりました。

周術期支援チーム

これらの取り組みによって、患者さんの回復は目に見えて早くなりました。

周術期の患者さんをこれまで以上に支援する活動を、チームで行なっていく取り組みが、一部の病院で始まっています。まだ一般的な名称とは言えませんが、私たちは「周術期支援チーム」と呼んでいます。まだ数は少ないですが、全国でも先進的な病院では、スタートしています(例:済生会横浜市東部病院患者支援センター)。

これまで主治医任せだった患者さんの周術期管理を、麻酔科医を中心として、看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士、PT(リハビリ技師)、その他(医療クラーク、医療事務、ソーシャルワーカー)のメンバーで包括的に行なう取り組みです。私が勤める病院でも、チームを立ち上げている最中です。私が作成した概念図を下に示します。

周術期支援チームにより期待できる効果は以下のとおりです。

  • 患者さんの包括的サポートにより、不安軽減、安全性向上
  • 「つらくない術後」実現
  • 術後早期回復、社会復帰
  • 主治医の負担軽減
  • コメディカル(医師以外の医療スタッフ)が活躍できる体制づくり

まとめ

今回は、私が取り組んでいるよりプロジェクトを含めて、周術期医療の進歩についてご紹介させてもらいました。

  1. 手術のとき、つらいのは、術前ー絶飲食、下剤 術中:寒いこと、管が多い 術後:痛み、吐き気、動けないこと、絶飲食
  2. ERASプロトコールなどの取り組みにより、周術期の苦痛は軽減している
  3. 周術期管理チームがトレンドになっている

少しでも、手術を受けるときの不安軽減になれば幸いです。

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