「手術 vs. 化学放射線療法」進行度2~3の食道がんの治療方針

がん

こんにちは、コタロウです。

食道がんで受診された方との診察の様子です。

コタロウ
コタロウ

…ということで、Aさんの食道がんは、進行度3の状態ですから、治療法は、

①化学療法をしてから手術

②化学放射線療法

の2つの選択肢になります。

今日の説明を聞いて、最終的には自分で選んでいただく必要があります。

食道がん患者Aさん
食道がん患者Aさん

お話は分かりました。けど自分で選ぶのはむずかしいです。

お任せします。

コタロウ
コタロウ

なかなか自分で判断するのはむずかしいですよね〜

実際、こんな話をほぼ全ての患者さんとしています。大きな決断ですから簡単に答えられないのは分かりますが、ここはしっかりと理解したうえで決めていただかないと前に進めません。

分かりにくいのは説明が充分ではない?という意味で、医者として申し訳ないですが、食道がんの治療方法は、胃がんや大腸がんと較べると少し複雑です。

その理由は、胃がんや大腸がんが、治すための根治治療が手術だけなのに対して、食道がんは、放射線治療も大きな選択肢だからです。

胃がん、大腸がん:放射線治療の効果が出にくい(治らないと言ってもいい)、副作用リスクが大きい(腹腔内臓器は放射線に弱い腸にあたってしまい穿孔などの重大な合併症が起こりやすい)→放射線治療は通常行われません

食道がん:放射線がよく効く(治ることがある)、腹部に較べて縦隔は副作用が少なく照射しやすい→放射線治療が根治治療の選択肢

という、がんの性格の違いがあるのです。

このため、食道がんの治療方針を決定する際には、「手術 vs. 化学放射線療法」のどちらが優れているかという議論がされてきました。放射線治療は、抗がん剤を併用すると治療効果が上がるため、通常は化学放射線療法(抗がん剤を併用する放射線治療)が行われます。

Aさんへのアドバイスとして、食道癌診療ガイドラインの答えは「進行度2~3の食道がんには、術前化学療法(抗がん剤)からの手術が第一選択」になります。治る可能性が一番高いからというシンプルな理由からです。

この結論だけでは言葉が足りませんので、この記事ではもっと分かりやすく進行度II〜III食道がんの治療方針の決定方法を解説していきます。

治療法に迷っている方の判断の助けになればと思って書きました。是非、最後までお読みいただければと思います。

進行度II-IIIの食道がんの標準治療

食道がんの進行度は、癌の深達度(食道壁のどこまで浸潤しているか)、リンパ節転移、血行性転移(肺転移、肝転移など血流に乗って起こる多臓器転移)の3つの要素から決定され、0-IVbに分類されます。

日本食道学会「食道がん一般の方用サイト」より引用

進行度2〜3というのは、それなりに進行した、医師として最も治療意欲が湧く(と言ったら、気楽すぎると怒られそうですが)「なんとか治癒が期待できる」進行度と言えるでしょう。

「術前化学療法→手術」が標準治療

Stage II〜IIIの食道がんとは、深達度が筋層以上またはリンパ節転移があるような進行した状態です。

進行度II〜III食道がんの治療方針(日本食道学会「食道がん一般の方用サイト」より引用)
食道癌診療ガイドライン

食道がん診療ガイドラインでは、上図で示されているように「手術可能な状態」の進行度II〜III期の食道がん(青カッコ)に対する治療として、①術前化学療法後+手術、②手術+術後補助化学療法、③化学放射線療法の順で推奨しています。

この方針は、これまでの様々な臨床試験の結果から作られたものです。

ランダム化比較試験という大規模な臨床試験で比較するのが、統計学的にもっとも信頼できるエビデンス(証拠)になるのですが、これまで日本では、そのような臨床試験は実施されていません。海外からの報告はありますが、我が国とは治療レジメン、手術の精度(概して日本の手術は精度が高く合併症が少ないのは世界の常識です)、全体の治療成績が大きく異なり、あまり参考にされていません。

治療方針を決めた歴史的な出来事として、ターニングポイントとなった国内の臨床研究を紹介します。

標準治療の根拠となった臨床試験 

もともと食道がんを「手術のみ」で治そうとしていた時代が長くありましたが、治療成績が不良(合併症の多く、がんの再発も多かった)であることが大きな問題でした。

JCOG9204という臨床試験が1992〜1997年に行われました。「手術のみ」と「手術+術後補助化学療法」の術後生存率を検討したランダム化比較試験です。

JCOG9204 OS
JCOG9204 DFS
JCOG9204 DFS N+

その結果、5年生存率は、手術のみで57%、手術+術後補助化学療法で70%でしたが、統計学的な有意差はありませんでした。ただ5年無再発生存率は、手術のみ51%、手術+術後補助化学療法64%で統計学的有意差もありました。さらに、リンパ節陽性例で大きな差があったことから、これ以降、進行度II〜IIIの食道がんの標準治療は、「手術+術後補助化学療法」になりました。

「延命効果はあまりない」「再発を遅らせる効果はありそう」というのが術後補助化学療法についての評価と言えるでしょう。

では、その抗がん剤を手術前にした方が効果が高いのではないか?というクリニカルクエスチョン(臨床医学の疑問)が生まれました。解明するために行われた臨床試験がJCOG9907です。このランダム化比較試験では、「術前化学療法+手術」と「手術+術後補助化学療法」の治療成績を比較されました。

補助療法である抗がん剤を、手術の前に行なうか、後に行なうか。大きな差がないように思われるかもしれません。術前に行なう方が効果的と、現在は言われていますが、当時はまだ一般的ではありませんでした。乳がんで先行して術前の抗がん剤の効果が立証されていたことが、食道がんの臨床試験につながったと思われます。術前の方が効く理由については、手術をした後では、残存したがん細胞に抗がん剤が届きにくいことが原因と考えられています。

JCOG9907 OS
JCOG9906 OS

5年生存率は、術前化学療法で60%、術後化学療法で38%と、大きな差と統計学的有意差を持って、術前化学療法+手術の治療成績が向上していました。

ほぼ同時期に行われた、化学放射線療法の治療成績を調査した臨床試験JCOG9906で、5年生存率が37%に終わったこともあって、これ以後、進行度II〜III食道がんの標準治療は「術前化学療法+手術」になりました

これは現在(2021年2月)も変わっていません。

・JCOG9204: Ando N, et al: Surgery plus chemotherapy compared with surgery alone for localized squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus: a Japan Clinical Oncology Group Study–JCOG9204. J Clin Oncol. 15; 21 (24): 4592-6, 2003

・JCOG9907: Ando N, et al: A randomized trial comparing postoperative adjuvant chemotherapy with cisplatin and 5-fluorouracil versus preoperative chemotherapy for localized advanced squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus (JCOG9907). Ann Surg Oncol. 19 (1): 68-74, 2011

・JCOG 9906: Kato M, et al: Phase II study of chemoradiotherapy with 5-fluorouracil and cisplatin for Stage II-III esophageal squamous cell carcinoma: JCOG trial (JCOG 9906). Int J Radiat Oncol Biol Phys. 81(3):684-90, 2011

さらなる治療成績向上を目指して

ここまでの臨床試験で、手術だけでなく術前治療の効果が示されました。

さらに、その術前治療を強力に行なうことで、治療成績向上が得られるかどうかを検証するために、2011年からはJCOG1109(強力な抗がん剤、放射線治療を術前に施行する)という臨床試験が行われており、現在は結果の解析中です。

結果によっては、食道がんの標準治療が変更されるかもしれません。

JCOGとは 

Japan Clinical Oncology Group(日本臨床腫瘍研究グループ)の略

国立がん研究センターの研究支援センターが直接支援する多施設共同臨床研究グループで、国内の主要施設が臨床研究に参加しています。

治療方針の決め方

ここまで、科学的なデータに基づいて書かれた食道癌診療ガイドラインについて解説してきました。「がんを治す」という一点のみで考えれば、進行度II〜IIIの食道癌に最適な治療は「術前化学療法+手術」であることは、もうご理解いただけたと思います。

そのうえで、どうするかです。

しっかり説明を受けた後でも、「どうしても手術だけはいや」だったり「もう歳だし体力的に不安」だったり、患者さんの考えが患者さんの数だけあるでしょう。

また、手術は本来身体にとって必要な臓器(この場合は食道)を切除しますから、後遺障害があります。

この部分を無視して、治る可能性の高さだけで考えてはいけません。

進行度II〜IIIの食道がんを治すチカラのある治療法は、大きく分けて手術と放射線の2つしかありません。いま一度、この2つの治療法のメリットとデメリットを理解しておく必要があります。

手術、化学放射線療法のメリット、デメリット

手術と化学放射線療法それぞれのメリット、デメリットを表にまとめると以下のようになります。

メリットデメリット
手術治療成績が良い身体の負担が大きい
食道が無くなる
化学放射線療法身体の負担は少なめ
食道が温存できる
治療成績が劣る
致死的な合併症
(間質性肺炎、心嚢炎、食道出血など)
手術 vs. 化学放射線療法

手術は、上述のとおり治療成績が良いことが最大のメリットです。その反面、大きな手術を受けなくてはいけませんから危険もあります。食道を切除してしまいます(通常は胃で再建します)から、術後の食事、栄養状態に影響を強く及ぼします。

化学放射線療法は、治療成績こそ劣るものの、身体の負担は手術に較べて少ないですし、上手くいけば食道も胃も残ります。間質性肺炎や心嚢炎、食道出血など、ひどい場合は致死的な合併症もあり得ることもデメリットとして知っておきたい情報になります。

食道がん患者Aさん<br>
食道がん患者Aさん

よく分かりました。

少しでも治る可能性を優先して、手術を受けます。

と決意されるかもしれませんし、

歳も歳だし、手術は後がたいへんだから放射線にします。

かもしれません。いずれにしろ、ちゃんと理解して結論まで出せば、後は全力で治療にあたります。その方が良い結果が得られそうな気がしませんか。

ここでの情報も参考にして、後悔のない選択になるように、担当医とよく相談していただけたらと思います。

まとめ

1.食道癌診療ガイドラインで示された、進行度II〜IIIの食道がんに対する標準治療は「術前化学療法+手術」

2.治癒の可能性が高いことが手術の最大のメリットだが、負担が大きい、後遺障害を残すことがある

3.手術と化学放射線療法、両方のメリット、デメリットをよく理解して治療方針を決めること

少しでも参考になれば幸いです。

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