食道がんの「術後3大合併症」とは 食道外科専門医による説明

がん

こんにちは、コタロウです。

今回は、私の専門にしている食道がんの術後合併症についてお話させてください。

食道がんの手術で起こる合併症の説明を聞いたけど、怖い話ばっかりでよく分からなくなってしまいました。

食道がんの手術は、消化器外科のなかでも最大のもので、大きな身体の負担を伴います。そのため、術後にさまざまな「望ましくない」経過をたどることがあり、合併症といいます。

合併症には、出血やキズの感染のように分かりやすいものもありますが、その手術に独特の分かりにくいものもあります。

今回の記事では、食道がんの術後に特有の、少々分かりにくい合併症について解説します。

呼吸器合併症」「反回神経麻痺」「縫合不全」は、食道がん術後にしばしば発生する手ごわい合併症で、食道外科医のなかでは「食道がんの3大合併症」と呼ばれています。

手術前に、主治医から説明を受けるでしょうが、限られた時間での医師の説明を理解できる方は少ないでしょう。食道がんの術後合併症の説明をするのは、決して患者さんをおどすためではなく、いざという時に、患者さんと協力して問題を解決するための気持ちの準備をしておくためです。

この記事を読むことで、

術後に起こりうる合併症について知っておくことで、いざという時にしっかり対応するための心構えができます。

参考にしていただければと思います。

3大合併症その1 呼吸器合併症(15%*)

*:3大合併症の発生率は、NCDデータを参照しています。

NCD (National Clinical Database):日本国内の外科手術のクオリティコントロール、ビッグデータ集積のために2010年から開始されたデータベースで、国内で行われている手術の95%以上が登録されています。

食道がんの術後には、肺炎やARDS(急性呼吸不全)という呼吸不全状態に陥ることがあります。

これにはいくつか理由があります。

  1. 喫煙歴が長く、肺の機能が落ちている方が多い
  2. 右肺をペシャンコにして手術するため術後に無気肺(空気で肺が膨らんでない状態)になりやすい
  3. 気管周りのリンパ節転移を郭清するため、術後に痰を出しにくくなる
  4. 手術で長時間人工呼吸を行なうため、肺にダメージが残る
  5. 頸部に手術操作が及ぶので嚥下機能が落ちて誤嚥しやすくなる

喀痰、咳嗽(せき)、熱発、呼吸苦が主な症状になります。軽度の肺炎であれば、絶食や抗生物質を中心に治療していきます。

経過によっては気道、呼吸管理(喀痰吸引や人工呼吸など)が長期化し、気管切開(喉に穴を開けてチューブを入れる)を置いて治療していく必要があります。

胸腔鏡やロボット手術といった低侵襲手術のおかげで、呼吸器合併症は減少しています。しかし、命に関わる合併症であり、食道がん術後に外科医は気が抜けない大きな要因です。

3大合併症その2 反回神経麻痺(20%*)

この「反回神経麻痺」こそ、他の手術ではほとんど見られない食道がん特有の合併症でしょう。

反回神経とは、声帯を動かす運動神経です。脳から迷走神経の一部として一旦胸腔内の大血管(右-鎖骨下動脈、左-大動脈弓)の周りを”反回”して、気管の脇を通って声帯に繋がります。

左右の反回神経

この反回神経の周辺には、がんのリンパ節転移が多いため、手術では神経周りをお掃除(リンパ節郭清といいます)します。神経を圧迫したり牽引したりして、神経を痛めてしまうと、術後に神経の麻痺症状が出ることがあります。声帯が動かせなくなるのです。これが反回神経麻痺です。

声帯が動かなくなると、左右の声帯が擦れなくなり、声が出にくくなります。これを嗄声(させい)といいます。また、嚥下のときに声帯が閉じにくくなるため誤嚥しやすくなり、1で説明したの呼吸器合併症(誤嚥性肺炎)の大きな原因にもなります。

片側だけでもたいへんですが、両側になると症状が強く出ます。呼吸状態の悪化を引き起こし、人工呼吸、気管切開が必要になることもあります。

神経麻痺自体は治療方法が無く、神経機能が自然に戻るのを待つしかありません。数ヶ月以内に戻ってくることもありますが、残念ながら6ヶ月以上経過しても戻らなければ回復はむずかしいでしょう。

その際は、声帯にシリコンを注入して声帯間の距離を近づける手術(甲状軟骨形成術といいます)をお勧めします。局所麻酔で1〜2時間程度の手術です。神経の働きは戻りませんが、声帯が擦れやすくなり、声を出しやすくすることができます。

3大合併症その3 縫合不全(13.3%*)

食道を切除した後、胃を管状に細く形成して(胃管)、頸部で残った食道とつなぐのが一般的な再建方法です。

食道がんの再建方法

胃管の先端付近は血流不良となりやすいため、繋ぎ目がくっつきにくく、唾液や胃液が漏れる状態になることがあります。その結果、炎症、感染を起こして膿が溜まるようになりますが、これを縫合不全といいます。熱発、頸部創の発赤が初期の症状です。感染が胸腔や縦隔に拡がると危険な状況に陥ることもあります。

絶食が必要となり、抗生物質の投与とドレナージといって、溜まった膿を体外に出す処置(ドレーンという管を入れる、創を拡げるなど)で対応します。経過によりますが、治療に数週間を要することが多いです。

血流障害がさらに進むと、胃管先端付近が壊死(血流が悪くなり組織が死んでしまうこと)を起こすこともあります。胃管壊死といい、再手術が必要になります。食べられるようになるには長期間を必要とします。

合併症が起きたら。。

近年、手術方法の改善と工夫、術後の集中治療技術の進歩、術前からの栄養状態改善・呼吸リハビリなどの周術期管理によって、合併症の発生率は下がってきています。
それでも食道がん手術は消化器外科手術のなかで最も負担が大きいものですし、合併症の発生率も依然として高いです。

では、合併症が起きたとき、どのように考えて対処したらいいでしょうか。

まず当然のことかもしれませんが、主治医を信頼して任せましょう

外科医は術後の合併症には常に目を光らせています。そして発生したら、すぐに対応できるように備えています。食道がんの手術を手がけている外科医は、人一倍合併症対策の意識が高く、迅速に正しい判断ができることが多いと思われます。

合併症はミスではありません。あえてこのように強調するのは、合併症の治療のためには患者さんの理解と協力が必須だからです。主治医の説明をよく聴いて、疑問に思うことは尋ねて、治療を行っていただきたいと思います。

そのうえで、もし本当に合併症で状況が好転しなくなってしまったら、専門施設に相談することも検討してもいいかもしれません。

日本は全国どこでも医療レベルに差がないと私は思っています。しかし、食道がん治療は専門性が高く、正直言うと、術後合併症の対応力にも施設差を感じることはあります。手前味噌ですが、他院での術後合併症の治療が上手く行かず、ジリ貧状態になってしまった方の治療を請け負うこともあります。どうしても必要と判断したら、(患者さん本人は動けず、家族の方が相談することが多いでしょうが)セカンドオピニオン外来などの策を考えてもいいかもしれません。

まとめ

  1. 食道がんの3大合併症と言われる呼吸器合併症、反回神経麻痺、縫合不全について解説しました。
  2. 食道がんの大手術後は、合併症を100%防ぐことはできません。経過が悪いときほど主治医と情報を共有して、しっかりと治療していきましょう。
  3. どうしても必要なときは、専門施設に相談することも検討してください。

少しでもお役に立てたら幸いです。

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