「救急車の有料化」に私が反対する理由 〜アンダーマイニング効果とエンハンシング効果〜

コラム

こんにちは、コタロウです。

日本の保険制度が非常に優れている話は、このブログで何度もお話していますが、救急医療も、万全とは言えませんが、患者さんにとって利用しやすいものになっており、国民の安心、安全につながっていると考えています。

そのなかでも特筆すべきなことのひとつは、救急車を”簡単に”呼べるシステムです。

しかし、救急医療の現場はぎりぎりの状態です。病院の救急部門もたいへんですが、そこに急患を運ぶ救急車も限られた社会資源です。いざというときのための救急車を、軽症でもタクシー代わりに呼ぶ人が後を絶たないことが、社会問題化しています。その結果、本当に必要な救急対応が遅れ、助けられる命が助けられなくなる可能性すらあります(実際、そのようなケースを多数見聞しています)。

いっそ救急車は有料にするべきだ!

という意見もあります。ある調査によると、現場医師の90%が救急車の有料化に賛成しているとのことです(一般市民は50%だそうです)。

しかし、私はこの意見には、どちらかというと反対です。

今回は、その理由についてお話させてください。

ちなみに、世界の各都市の状況はどうかというと、ニューヨークでは、救急士が同乗しない患者搬送でも700ドル(約7万円)かかります。ミュンヘンでは医師の許可がなければ10〜600ユーロ(約8000〜5万円)必要です。日本の無料体制の方が珍しいようです(消防庁、2016年救急業務のあり方に関する検討会報告書より)。

救急車が有料になることのメリット、デメリット

  • 救急車が有料になることのメリットとデメリット
  • 1.メリット
  •  1-1 タクシー代わりの利用が減る
  •  1-2 救急車の適正使用の啓蒙になる
  •  1-3 医療費の補助になる
  • 2.デメリット
  •  2-1 本当に必要な人の救急車利用の妨げになる
  •  2-2 料金の徴収システムを整える必要がある

メリット

タクシー代わりの利用が減る

これが考えられる最大のメリットです。有料化によって、不要不急の救急車利用が減れば、本当に必要なときに救急車が出動できるようになります。これが目的で有料化するのですから、当然期待される結果です救急車の適正使用の啓蒙になる

もともと不適正使用していなかった一般市民の方々にも、救急現場の現状を自覚してもらえる利点があります。その結果、救急車を呼ぶ基準のようなものが出来上がっていくことが期待できるかもしれません。

医療費の足しになる

我が国の医療経済は厳しい状況です。救急車の利用が有料になれば、多少なりとも医療費の足しになります。救急車の1回の出動に要するコストは概算すると45000円程だそうです。思っていたより高額なのではないでしょうか?有料化によって,少しは医療経済の助けになるでしょう。

デメリット

本当に必要な人が利用できなくなるかもしれない

本当に必要な人が、有料であるがために救急車を呼ぶのをためらう事態が生まれるかもしれません。その結果、助かる命が助からなくなるならば、本末転倒です。有料化反対派の一番の理由と思われます。

料金の徴収システムを整える必要がある

救急隊が、その場で料金を徴収するのは現実的ではないので、新たに料金を徴収するシステムを構築する必要があります。これにもコストがかかります。

私が救急車の有料化に反対する理由

私は、救急車を有料にすると、「かえって不適正利用者が増える」恐れがあると思っています。

よく似た話で、こんなものがあります。

イスラエルの託児所で、お迎えに遅刻した親から罰金を取るようにしたら、どうなったでしょう?なんと、遅刻は減るどころか倍増してしまったそうです。

これは、保育士に迷惑を掛けてはいけないという道徳的、内的動機づけを、罰金という経済的取引、外発的動機づけに変えたために、かえってモチベーションが下がったと説明されています。心理学者E・デシが提唱する「アンダーマイニング効果」(過剰な正当化効果)と呼ばれるものです。

アンダーマイニング効果:好奇心や喜びのような内発的動機づけが、評価や昇給のような外発的動機づけに変わることで、いつの間にかやる気が無くなり、モチベーションが下がってしまうこと

これと同じように、救急車を有料化すると、内発的動機づけ(こんな軽症で救急車を呼んでは迷惑かもしれない)が弱まって外発的動機づけ(利用料金を払うんだから呼んでいい)が強くなり、結果的に不適切利用が増えるのではないかと考えます。

では、「そんな気にならないくらいの金額に料金を上げたら?」とも思いますが、それでは必要な人が利用するハードルを上げることになります。現実的ではないでしょう。

人間を信用しなさすぎと避難されそうですが、モンスターペイシェントを舐めてはいけません。世の中には、自分さえ良ければいいと考えている人たちが一定数います。救急外来などの医療現場を見続けていると、私の意見は決して極端なものではないと思います。

解決策は?

  • 救急車の不適切利用問題の解決策(案)
  • 1.無料のまま、救急車を増やす
  • 2.市民意識の啓蒙
無料のまま、救急車を増やす

財源の問題がなければ、これで解決できます。もともと十分なリソースがあれば、好きなだけ救急車を呼んでもいいはずです。理想的な解決策ですが、その財源がないですし、その後の病院にも医療資源がありませんから、現実的ではありません。

市民意識の啓蒙

さきほどの「アンダーマイニング効果」のカウンター(対策)として考えると、この方法しかないと考えてます。

努力や工夫に周りからポジティブな反応があると「もっと頑張ってみよう」という内発的な動機づけ(自発的なモチベーション)ができます。これを「エンハンシング効果」と呼ぶそうです。

救急車の不適切利用の実態と、適正利用の大切さを、粘り強く発信していくことで、一般市民の自発的なモチベーションを上げること。地味で即効性はないかもしれませんが、これが一番大切なことではないでしょうか。

まとめ

「救急車の有料化」に私が反対する理由を解説しました。

すでにお気づきと思いますが、この記事自体が啓蒙活動の一環です。

救急車の現状をご理解いただいて、適切な使用をお願いいたします。

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