外科医が「急性虫垂炎(盲腸)に腹腔鏡手術をおすすめ」する4つの理由

医療

こんにちは。コタロウです。地方の基幹病院で外科医をしています。

こんな疑問を患者さんや同僚医師(麻酔科の先生からも!)から投げかけられることがあります。

盲腸の手術は小さなキズでもできるんだよね?

腹腔鏡でやる意味ないんじゃない?

コタロウ
コタロウ

基本的には腹腔鏡手術のメリットが大きいので、腹腔鏡をおすすめします。

理由を解説します。

他記事で、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術を比較しましたが、虫垂炎には腹腔鏡>開腹手術が良いということです(ロボット手術は虫垂炎には適用できない保険上のルールがありますし、実際にメリットはないでしょう)。

ちなみに、「いわゆる盲腸」とは「急性虫垂炎」の俗称です。下の図を御覧ください。

小腸と大腸のつなぎ目で、大腸側の盲端になっている部分を「盲腸」といいます。その先に「虫垂」という小指くらいの腸があり、ここの炎症が「虫垂炎」です。なぜか「虫垂炎」=「盲腸」という俗称が普及していますが、正しくは「虫垂炎」です。

虫垂炎の治療は3種類

病状によって、治療法は大きく3種類に分けられます。

  1. 保存的治療(抗生剤)
  2. 手術(開腹、腹腔鏡)
  3. 2期的手術(抗生剤→落ち着いたところで手術)

保存的治療(抗生剤)

症状が軽く、手術をしなくても抗生剤で治りそうなら抗生物質で「散らす」ことが可能です。程度によりますが、およそ50%以上は抗生剤で抑え込むことができます。良くなれば、そのまま様子を見ることが多いですが、再発する可能性は残ります。また抗生剤が効かないことがあり、そのときは手術治療が必要になります。

手術

ある程度症状が進んでいたら、虫垂を切除する「虫垂切除術」が必要です。

開腹と腹腔鏡手術のどちらかになります。

2期的手術(Interval Appendectomy; IA)

保存的治療と手術がほとんどで、3つめの2期手術は、ややイレギュラーな治療方法です。

比較的長時間我慢してから病院を受診すると、虫垂の周りに膿瘍と言って膿のたまりが出来てしまうことがあります。腹腔内膿瘍という状態で、こうなると虫垂もだいぶ炎症がひどくなっており、手術で安全に切除することがむずかしくなります。この段階で緊急手術に挑むと、手術が大きくなりますし、術中、術後の合併症の危険が大きくなります。

こんなときは一度抗生剤で炎症を抑えて、ある程度落ち着いてから(1〜2ヶ月後で)手術をします。これを2期的手術(Interval Appendectomy; IA 期間を開けての虫垂切除)といい、ここ5年くらいで普及したやり方です。治療期間は長くなりますが、安全ですし、手術の負担が軽くなりますから、救急疾患に慣れた外科医のいる施設なら、選択肢になるでしょう。

汎発性腹膜炎:同じく進行した虫垂炎のうちでも、穿孔(虫垂に穴が開く)して、お腹の中に便が漏れて腹膜炎になってしまった場合は2期的手術は不可能で、緊急手術が必要です。腹膜炎がまだまだ拡がり、汎発性腹膜炎になる恐れがあるからです。膿瘍と腹膜炎とでは、治療方針が大きく異なります。

腹腔鏡下虫垂切除を選ぶべき理由

手術が必要なとき、腹腔鏡と開腹と、どちらを選ぶべきでしょうか。

腹腔鏡下虫垂切除術が始まった頃は、「開腹でも傷は小さい。わざわざ全身麻酔が必要な腹腔鏡手術を選ぶ必要あるか?」という意見が多かったです。

それぞれ利点と欠点があります。

腹腔鏡手術開腹手術
麻酔全身麻酔腰椎麻酔
3ヶ所(5〜10mm)
小さく目立たない
1ヶ所(5cm)
やや目立つ
手術のやりやすさお腹の中がよく見える狭い範囲しか見えない
術後合併症少ないやや多い
術後の痛み軽いやや強い
虫垂炎手術方法の比較(腹腔鏡と開腹)

この表だけ見てもピンと来ないと思いますので、それぞれの手術をもう少し解説します。

傷は、腹腔鏡手術では3ヶ所穴を開けて、腹腔鏡と鉗子2本で行ないます。虫垂はヘソの傷から摘出します。開腹だと虫垂の真上に5cmくらいの傷をつけて、その小さな傷から直接虫垂を切除します。

単孔式手術と言って、ヘソの1ヶ所から3本鉗子を入れられるポートを挿入して行なう術式もありますが、ここでは省略します)

腹腔鏡下虫垂切除の創
開腹虫垂切除の創

腹腔鏡下虫垂切除手術の代表的な手術記録をお示しします。

周りの組織から剥離して、虫垂の根本から切り取って、摘出する。そしておなかの中をきれいに洗ってくることが手術の基本です。

私が、腹腔鏡手術が望ましいと考える理由は主に3つあります。

  1. 腹腔鏡手術は、開腹手術に較べて創感染が少ない
  2. 術後の痛みが少ない
  3. 腹腔内を広く観察できる
  4. 洗浄や追加処置(ドレナージ、回盲部切除など)に対応しやすい
開腹手術に較べて創感染が少ない

虫垂炎の手術では、感染した虫垂を切除する手術ですから、術後に創感染(傷に細菌が移って炎症を起こす)が起こりやすいです。小開腹創から手術をすると、創感染を起こすことがとても多かったのですが、腹腔鏡手術が普及してから、激減しました。虫垂をヘソの傷から取り出すときはバッグに入れて、傷を汚さないようにして取り出しますし、一番汚れている右下腹部は傷がないことも大きな理由です。

最も多い合併症である、創感染が少ないことが腹腔鏡手術を勧める一番の理由です。

術後の痛みが少ない

小さな傷から手術を行なう開腹手術では、筋鈎(術野を広げるための手術道具)で周囲の組織を押さえつける必要があります。このため、術後の痛みが大きくなりますし、感染の一因にもなります。腹腔鏡手術では小さな穴だけですから痛みが少ないです。

腹腔内を広く観察できる

腹腔鏡手術では、お腹のなかをカメラでしっかり見ながら手術を進めることができます。虫垂炎の術前診断でも、他の病気であった場合(憩室炎、腸炎、卵管炎など)、手術中に診断にたどり着くことも、稀ですがあり得ます。

小さい傷から覗き見るようにして行なう開腹手術では、虫垂を見つけるのに必死で、他の場所はほとんど見えません。腹腔鏡手術の方が安全なのは言うまでもないと考えます。

洗浄や追加処置(ドレナージ、回盲部切除など)に対応しやすい

虫垂炎が想定していたよりも進行していた場合、手術中に追加処置が必要になることがあります。

例えば、周りの炎症が強く、術後のために管を置いてくる必要ある場合(ドレナージといいます)や、炎症が盲腸に拡がっていて、もっと広い範囲を切除(回盲部切除といいます)する必要がある場合などです。

このようなときには小開腹では対応できず、傷を大きく広げたり、全身麻酔に切り替えたりする必要があります。腹腔鏡手術であれば、そのような事態でも、迅速に判断、対応することがしやすいです。

まとめ

このような理由から、虫垂炎の手術には、腹腔鏡手術が望ましいと考えています。開腹手術の利点は、腰椎麻酔で行なえることぐらいでしょう。実際、麻酔科医の不足により、全身麻酔ができないために開腹手術が行われている病院もまだまだ多いと聞きます。しかし、現場の外科医の正直な意見として、たとえ転院させてもらってでも腹腔鏡手術を受けることをお勧めします。

参考になれば幸いです。

軽症〜中等症の急性虫垂炎を対象に解説しています。個々のケースでは、特別な判断が必要なこともあります。実際に私も開腹を選択することはあります(腹膜炎がひどくて、大切開、洗浄、ドレナージを徹底する場合など)。この記事の知識を持ちつつ、主治医とよく相談して選択していただきたいと思います。

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